AWS Lambdaの高度な機能
AWS Lambdaの高度な機能
AWS Lambdaは、サーバーを意識することなくコードを実行できる便利なサービスですが、その機能を最大限に活用するためには、いくつかの高度な概念を理解しておくことが重要です。ここでは、VPCアクセス、実行ライフサイクル、デプロイパッケージ、バージョニング、RDS Proxy連携といった高度な機能について、初学者にも分かりやすく解説します。
VPC内のリソースへのアクセス
通常、Lambda関数はAWSが管理する特別な環境で実行されます。しかし、自分で作成したVPC(Virtual Private Cloud)内にあるRDSデータベースやElastiCacheといったプライベートなリソースにアクセスしたい場合もあります。
そのために、Lambda関数にVPCのサブネットとセキュリティグループを設定することができます。この設定を行うと、Lambda関数のためにENI(Elastic Network Interface)という仮想のネットワークカードがVPC内に作成され、VPC内のリソースと安全に通信できるようになります。
設定のポイント
- IAMロール: Lambda関数がVPCにアクセスするためには、その実行ロールに
AWSLambdaVPCAccessExecutionRole
という管理ポリシーをアタッチする必要があります。
実行ライフサイクル:コールドスタートとウォームスタート
Lambda関数がどのように実行されるかを知ることは、パフォーマンスを最適化する上で非常に重要です。
Lambda関数は、コンテナと呼ばれる実行環境の中で動きます。
- コールドスタート: 関数が初めて呼び出されたり、しばらく使われていなかったりした場合、AWSは新しいコンテナを準備する必要があります。これには、コンテナの作成、コードのロード、ランタイムの起動といったステップが含まれ、実行までに少し時間がかかります。これを「コールドスタート」と呼びます。
- ウォームスタート: 一度実行されたコンテナは、次のリクエストのためにしばらく保持されます。この温まった状態のコンテナが再利用される場合、準備処理がスキップされるため、関数は素早く実行されます。これを「ウォームスタート」と呼びます。
コールドスタートはレイテンシ(遅延)の原因となるため、特に応答速度が求められるアプリケーションでは対策が必要です。
コールドスタート対策
- Provisioned Concurrency(プロビジョニングされた同時実行数): 事前に指定した数の実行環境を常にウォーム状態に保っておく機能です。これにより、リクエストがあった際に即座に関数を実行でき、コールドスタートを回避できます。
- AWS Lambda SnapStart: Java 11 以降、 Python 3.12 以降、 .NET 8 以降、のマーネージドランタイム向けの新機能で、実行環境のスナップショットを利用して、起動時間を大幅に短縮します。コールドスタートのレイテンシを劇的に改善することができます。
Lambdaの機能を拡張する
Layers (Lambda Layers)
複数のLambda関数で共通して使いたいライブラリやカスタムランタイム、その他の依存関係を「レイヤー」として切り出し、共有する機能です。
例えば、複数の関数で同じデータ処理ライブラリを使う場合、各関数にライブラリを含めるのではなく、一つのレイヤーにまとめておけば、それぞれの関数から参照するだけで済みます。これにより、デプロイパッケージのサイズを小さく保ち、管理が容易になります。
- 1つのLambda関数には最大5つのレイヤーをアタッチできます。
Extensions (Lambda Extensions)
モニタリング、オブザーバビリティ(可観測性)、セキュリティ、ガバナンスのためのツールをLambdaと統合するための拡張機能です。
通常、EC2インスタンスなどではエージェントをインストールして監視を行いますが、Lambdaではそれができません。Extensionsを利用すると、使い慣れたサードパーティ製のツール(Datadog, New Relicなど)を簡単にLambda環境に導入できます。ExtensionsはLayersの仕組みを使って実装されており、関数コード本体に監視用のコードを書き加える必要がなくなります。
- 1つのLambda関数には最大10個のExtensionを設定できます。
カスタムランタイム
Lambdaが標準でサポートしていないプログラミング言語(例: C++)や、特定のバージョンを使いたい場合に、独自のランタイムを作成して実行するための機能です。これにより、より幅広い言語や環境でLambdaのメリットを享受できます。
デプロイパッケージ:ZIPとコンテナイメージ
Lambda関数として実行するコードのかたまりを「デプロイパッケージ」と呼びます。Lambdaはこのパッケージを受け取って、関数を実行します。デプロイパッケージには、主に2つの形式があります。
ZIP形式
伝統的なパッケージ形式で、コードと依存ライブラリをZIPファイルにまとめたものです。手軽に扱えますが、非圧縮時のサイズ上限が250MBという制限があります。
コンテナイメージ形式
Dockerなどのコンテナ技術を使っている場合、そのイメージをそのままデプロイパッケージとして利用できます。
- 大容量に対応: サイズ上限が10GBと非常に大きいため、機械学習のモデルなど、容量の大きいワークロードにも対応できます。
- 環境の統一: ECSやFargateなど、他のコンテナベースのサービスと開発・デプロイの体験を統一できます。
- 柔軟な環境構築: AWSが提供するベースイメージ(Amazon Linuxベースで最適化済み)を利用したり、Ubuntuなど好みのLinux環境をベースに独自の実行環境を構築したりと、高い柔軟性を持ちます。
Lambdaの実行環境とコンテナを連携させるための仕組み(Runtime API, RIC)が必要ですが、AWS提供のベースイメージを使えば、このあたりを意識することは少なくなります。
基本的には、ZIP形式で十分ですが、パッケージが大きくなる場合や、他のサービスとコンテナで環境を統一したい場合にコンテナイメージ形式が強力な選択肢となります。
バージョニングとエイリアス
開発が進むと、Lambda関数も機能追加や修正で変更されていきます。その変更履歴を管理するのが「バージョニング」機能です。
関数を更新するたびに、$LATEST
という最新バージョンが更新されます。さらに、特定の時点の関数を「バージョン1」「バージョン2」のように、不変のスナップショットとして発行できます。
そして、そのバージョンに対して「エイリアス(別名)」を付けることができます。例えば、「Production(本番環境)」というエイリアスを常に安定版のバージョン(例: バージョン2)に向けておけば、呼び出し元のアプリケーションはエイリアス名だけを指定すればよく、具体的なバージョン番号を意識する必要がなくなります。
カナリアリリースによる段階的なデプロイ
エイリアスには、トラフィックを2つのバージョンに分散させる「加重エイリアス」という機能があります。
例えば、新しい「バージョン3」をリリースする際に、
- バージョン2 (安定版): 90%
- バージョン3 (新機能版): 10%
のようにトラフィックを振り分けます。これにより、一部のユーザーだけに新機能を先行して公開し、問題がないかを確認しながら段階的に全ユーザーに展開する「カナリアリリース」を安全に実現できます。
Lambdaのバージョニングとエイリアス(特に加重エイリアス)を使って、どのようにカナリアリリースを実現するか、その仕組みをしっかり理解しておきましょう。
RDS Proxyによるデータベース接続の最適化
サーバーレスアプリケーションであるLambdaと、RDSのようなリレーショナルデータベースは、実はそのままでは少し相性が悪い側面があります。
Lambdaはリクエストごとに実行環境が起動・破棄されるため、その都度データベースへの接続(コネクション)を確立・切断すると、リソースの無駄遣いや遅延が発生したり、データベース側のコネクション数上限に達してしまう問題がありました。
この問題を解決するのが RDS Proxy です。
RDS Proxyは、Lambda関数とRDSデータベースの間に立つ「接続マネージャー」のような役割を果たします。
- Lambda関数からの大量の接続リクエストをRDS Proxyが受け止めます。
- Proxyは、RDSへのコネクションを効率的に共有・再利用する「コネクションプーリング」を行います。
- これにより、Lambda関数は都度コネクションを確立する必要がなくなり、アプリケーション全体のパフォーマンスと信頼性が向上します。
接続には、従来の認証情報だけでなく、IAMロールを利用した安全な認証もサポートされています。